足元のビジネスにおいて注目を集めている技術として、「メタバース」があります。メタ(meta=超越した)、ユニバース(universe=宇宙)を組み合わせた造語で、仮想空間の中でさまざまな活動ができるようになる技術のことです。ゲームやSNSの世界では限定的な形で少し前からメタバースを取り入れたものが見られましたが、近年はこの技術をさまざまな形でビジネスに取り入れようとする動きが広がってきています。
メタバースと既存技術の共通点と違いとは?
メタバースは一見、全く新しい概念のように見えますが、実はすでに存在する幾つかの技術から進化であり、大きく機能が拡張したものです。
ゲームやSNSでは限定的な形で用いられてきたもの
メタバースというフレーズ自体が浸透し始めたのはつい最近ですが、この技術自体は「限定的な形」では従来よりゲームやブログなどの分野では用いられてきました。ブログではアメブロの「アメーバピグ」(2019年にサービス終了)が自身のアバターを作成して他のユーザーと互いに交流する機能を持っていました。
ゲームに関しては例をあげるときりがなく、MMO RPGやFPSタイプのゲームなどは「アバター」という名称は用いていなくとも、実質的にはメタバースに類する機能を持っています。より一般的なところで言えば「どうぶつの森」もこれに当てはまるでしょう。
最近話題になっているメタバースとこれら従来型のサービスとの違いは自由度にあります。これまでのアバターを活用した交流可能なサービスでできることは、特定の目的に基づく限定的なものでした。例えば、ゲームであればメッセージのやり取りや、アイテムの交換、どうぶつの森ではそれぞれが形成した空間への訪問など、できることはそのゲームを進める上で必要な限られた機能に過ぎませんでした。
VR(仮想現実)よりもコミュニティ形成に重点が置かれる
続いて、もう一つ「仮想」に関する技術として注目されているものとしてVRがあります。VRとメタバースは補完し合う可能性があるものではありますが、もちろん両者は異なります。
VRは、本来の意味は仮想現実を体験できる「デバイスやツール、道具」を指すので、インターネット上に形成される仮想空間である「メタバース」とは概念としてやや異なります。ただし、今ではVR=仮想現実として形成されるもの(映像や空間など)を指す用例も出てきており、よりメタバースに近い意味合いになります。
2021年8月19日にFacebookからリリースされた「Horizon Workrooms(ホライゾン・ワークルームズ)」は、CGで作成された仮想空間上で会議やセミナーを開くことができるサービスで、同社はこのサービスを通してエンターテインメント以外の分野におけるVRの用途を示しました。
メタバースをビジネスにもちいることで期待される効果とは?
メタバースをビジネスに用いることで、さまざまな効果が期待できます。これらの効果を最大限活用することで、よりビジネスや社会の発展に役立てる余地があるからこそ、メタバースは注目を浴びているのです。
現実には実現不可能な状況の共有が可能
メタバース上においては現実には実現不可能な環境や状況などをつくり出し、かつそれを多くの人と共通体験することができます。エンターテインメントとして現実にはあり得ない環境を体験するサービスの提供などはイメージしやすいでしょう。また、例えば研究において、シミュレーションをメタバース上で具現化し、議論を活性化させ、イノベーションを促進させられる可能性もあります。
飛躍的な生産性の向上
メタバースを用いれば、「距離」によるさまざまな制約を大幅に緩和することができます。インターネットやWeb通話ツールがこれだけ普及した現代でも、ビジネスにおいて地理的な制約はしばしば頭を悩ませます。顧客に会うために出張したり、現地見学などのために顧客を外に招いたりということが今でも行われており、確実にビジネスの進捗を遅らせる要因となっています。
メタバース上では、既存のコミュニケーションツールよりも圧倒的な情報量で顧客や関係者と共通の経験を持つことができます。距離の離れた主体同士でできることが増えれば、それだけビジネスを効率的に進めることが可能になるでしょう。
感染症の抑制にも
メタバースに注目が集まった遠因として、新型コロナの影響は無視できないでしょう。世の中の多くの企業は対面でのコミュニケーションを減らす努力をするとともに、リモート環境でもビジネスを円滑に進める方法を模索しています。その中でメタバースは有効な対策として注目されているのです。
仮想空間はこれまでエンターテイメントを中心に積極的に応用されてきました。これをビジネス全体で活用することで、顔を合わせずとも、ビジネスを円滑に進めることができます。仮想空間上でできることが増えれば増えるほど感染対策としての効果は高まるため、現在多くの企業が積極的にメタバースの応用の可能性を追求しています。
まとめ
ビジネスの観点からも、経済発展の側面からもメタバースに対する期待感は非常に高くなっていて、中には次世代のSNSとして機能するのではないかとの意見もあります。カナダのエマージェン・リサーチ社の調査と予想に基づくと、2020年時点でメタバース関連の市場はすでに5.5兆円に達しているとの見方です。ビジネス面では、この有望市場を活用しない手はありませんし、これから就職してキャリア形成を検討している場合には、メタバース関連の企業は要注目と言えるのではないかと思います。