『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編で、物語の重要な鍵を握った盤上競技「軍議(ぐんぎ)」。
キメラアントの王メルエムと、盲目の少女コムギが死闘を繰り広げたこのゲームは、単なる遊びではなく、二人の関係性や物語のテーマそのものを象徴する奥深いものでした。
この記事では、多くのファンが気になっている軍議の基本的なルールから、勝敗を分ける特殊なルール、そしてコムギが見せた天才的な戦術まで、わかりやすく解説していきます。
軍議のルールとは?
まずは、軍議の基礎知識から見ていきましょう。ここでは軍議の基本的なルールについて解説します。
ゲームの目的と勝利条件
軍議は、将棋やチェスのように、縦横9マス、合計81マスの盤上で繰り広げられるゲームです。詳細な条件や目的は以下のようになります。
- ゲームの最終目的は、「帥(スイ)」を捕獲すること
- 「帥」は将棋の「王将」にあたる駒
- 「帥」を取られたプレイヤーが負けとなる
- 「詰み(ツミ)」という状態を作り出すことでも勝利できる
- プレイヤー自身が負けを認める「投了(とうりょう)」によってもゲームは終了
- 同じ盤面が4回現れた場合は、「千日手(せんにちて)」となり、引き分けで再勝負となる
14種類25枚の駒たち
各プレイヤーは、14種類、合計25個の駒で構成される軍隊を率いて戦います。
将棋と大きく違うのは、一度盤上から取り除かれた駒は、そのゲームで二度と使うことができない点です。そのため、一つ一つの駒が非常に貴重であり、どの駒を失うかは戦局に大きな影響を与えます。
駒には、王である「帥」から、特殊な動きをする「忍(シノビ)」や「謀(ボウショウ)」まで、様々な種類が存在します。それぞれの駒の動きについてご紹介します。
駒 | 読み方 | 枚数 | 動きの概要と初心者向け解説 |
帥 | スイ | 1 | ・王様 ・全方向に1マス動ける ・将棋の「王将」に相当する最重要駒 |
大 | タイショウ | 1 | ・最強の攻撃駒 ・将棋の「龍王」と同じく、縦横無尽かつ斜め前後に動ける非常に強力な駒 |
中 | チュウジョウ | 1 | ・強力な攻撃駒 ・将棋の「龍馬」のように、斜め全方向と縦横1マスに動ける万能駒 |
小 | ショウショウ | 2 | ・守りの要となる駒 ・将棋の「金将」と同じ動きで、前、左右、斜め前に1マス進める |
侍 | サムライ | 2 | ・「小将」より少し攻撃範囲が狭い駒 ・前、斜め前、真後ろに1マス動ける |
槍 | ヤリ | 3 | ・前方への攻撃に特化した駒 ・前に2マス、後ろと斜め前に1マス進むことができる |
馬 | キバ | 2 | ・騎兵 ・縦横に2マス動ける駒 ・将棋の「飛車」の動きを少し制限したような性能を持つ |
忍 | シノビ | 2 | ・忍者 ・斜め全方向に2マス動けるトリッキーな駒 ・将棋の「角行」に似ているが、特に奇襲に有効 |
砦 | トリデ | 2 | ・不動の要塞 ・後方への動きが中心の守備的な駒 |
兵 | ヒョウ | 4 | ・歩兵 ・前後に1マスずつ進める ・将棋の「歩」と違い、後ろに下がれるのが大きな特徴 |
弓 | ユミ | 2 | ・飛び道具 ・他の駒を飛び越えて攻撃できる特殊な駒 |
筒 | ツツ | 1 | ・飛び道具 ・「弓」と同様に、他の駒を飛び越えて目標を攻撃できる |
砲 | オオヅツ | 1 | ・飛び道具 ・最も射程が長い特殊駒で、遠距離から敵を狙い撃てる |
謀 | ボウショウ | 1 | ・謀将 ・斜め4方向と真後ろに1マス動ける ・特殊能力「寝返り」を持つトリッキーな駒 |
戦略の要!自由な初期配置
軍議の戦略性を最も特徴的なのが、「自由配置」というルールです。
入門編や初級編では駒の配置が決まっていますが、メルエムとコムギが戦った中級・上級編では、プレイヤーが自陣(手前の3列)の好きなマスに、駒を一つずつ交互に配置していくことからゲームが始まります。
最初に配置するのは必ず「帥」でなければなりません。この初期配置の段階から、プレイヤー間の深い読み合いと心理戦が展開されます。
配置されなかった駒は「持ち駒」となり、「新(あらた)」というルールを使って後から盤上に投入することが可能です。
軍議を奥深くする3つの特殊ルール
軍議が他のボードゲームと違うのは、これからご紹介する3つの独創的な特殊ルールがあるからです。それぞれの特殊能力について見ていきましょう。
立体的な攻防を生む「ツケ」
軍議の中でも特徴的なルールが「ツケ」です。
これは、自分の駒を、他の駒(自軍・敵軍問わず)がすでにあるマスに移動させ、積み重ねる行為を指します。
この「ツケ」により、軍議は平面的な盤上ゲームから、高さの概念が加わった三次元の戦いへと進化し、駒を重ねると、その駒は強化されます。
「ツケ」の例
例えば、2段目に置かれた駒は移動できるマス数が2倍に、3段目なら3倍になるなど、射程が大幅に伸びます。
ただし、動けるのは重ねられた駒の一番上にある駒だけで、下の駒は動けなくなります。
また、自分より高い段数の相手の駒を攻撃したり、「ツケ」にしたりすることはできません。高さが絶対的な力を持つため、「塔」を築くか、数で盤面を制圧するかの戦略的なジレンマが生まれます。
戦況を動かす一手「新(あらた)」
「新(あらた)」は、初期配置で使わなかった「持ち駒」を、ゲームの途中で盤上の空いているマスに配置するアクションです。
これにより、戦況に応じて新たな戦力を投入し、相手の意表を突くことができます。
ただし、駒を置ける場所には重要な制約があり、「戦線ルール」と呼ばれ、自軍の駒が最も進んでいるライン(戦線)か、それより後ろのマスにしか配置できません。
このルールがあるため、敵陣深くにいきなり駒を送り込むことはできず、戦線を押し上げること自体が戦略的に重要になります。
自軍の駒の上に「新」で駒を「ツケ」て、即席の強力なユニットを生み出す戦術は特に強力です。
特殊な駒の能力
中級ルール以上で登場する駒の中には、戦局を大きく左右する特殊能力を持つものが存在します。「弓(ユミ)」「筒(ツツ)」「砲(オオヅツ)」といった「飛び駒」は、敵や味方の駒を飛び越えて目標に到達できるため、防御陣形を無視した直接攻撃が可能です。
また、「謀(ボウショウ)」が持つ「寝返り」が特徴的で、「謀」で相手の駒に「ツケ」をした際、もし自分の持ち駒に「ツケ」にした相手の駒と同じ種類の駒があれば、その駒と交換することができます。
これにより、相手の重要な駒を盤上から消して陣形を内側から崩壊させることが可能になる、強力な能力です。
コムギの天才的な戦術『孤狐狸固』とは?
軍議のルールを理解した上で、次はコムギが見せた天才的な戦術について見ていきましょう。メルエムが編み出した必勝戦術と、それをいとも簡単に見破り、さらには進化させたコムギの思考は、軍議の奥深さと物語のテーマを深く結びつけています。
メルエムが生み出した必勝戦術は?
超人的な学習能力を持つメルエムは、軍議を始めてすぐに必勝と信じる戦術を編み出します。それは、自らの「帥」を盤の隅に孤立させて配置する、攻撃的な陣形でした。
メルエムはこの戦術を「離れ隠し(はなれがくし)」と名付けましたが、これこそが後にコムギが「孤狐狸固(こコリこ)」と呼んだ戦術でした。
メルエムの戦術は、守るべき「帥」をあえて囮として敵陣に切り込ませる、ハイリスク・ハイリターンなものでした。しかし、メルエムが自信を持って放ったこの一手に、コムギは「それは10年ほど前に私が考えたもの」だと告げ、衝撃を与えました。
『孤狐狸固』を破るコムギの一手
コムギにとって、メルエムの必勝戦術『孤狐狸固』は、すでに対策が確立され、負けに繋がることが分かっている「白(シロ)」の戦術でした。
彼女自身が何年も前にその攻略法を編み出し、プロの棋譜からはとうに消えていたのです。
メルエムの『孤狐狸固』に対し、コムギは盤の中央に「中将」を置く「中中将(なかちゅうじょう)」で対抗し、決定打として「9-2-1 中将 新」という一手でメルエムの陣形を完璧に打ち破りました。
コムギが見出した「新手」
一度は「死んだ戦術」とされた『孤狐狸固』ですが、後の対局でメルエムが再びこの戦術を用いた際、コムギは王との無数の対局の中で得た閃きから、誰も予測できなかった「新手(あらて)」を見つけ出します。
その一手とは「4-6-1 忍 新」。この手は、理論上は敗北するはずだった『孤狐狸固』を進化させたもので、この出来事は、定められた運命をも超える可能性を示唆するものであり、メルエムとコムギの絆の強さを象徴しています。
まとめ
『HUNTER×HUNTER』に登場する軍議は、単なる作中ゲームではなく、物語のテーマやキャラクターの心理、そして二人の運命的な出会いを描くためのもので、自由配置、「ツケ」、「新」といった独創的なルールは、キメラアント編の予測不可能な物語を完璧に盤上で表現しています。
今回解説したルールや戦術を知ることで、メルエムの知性の限界と成長、そしてコムギの揺るぎない天才性が、盤上の二手三手にどのように現れていたのかをより深く感じ取ることができるのではないでしょうか。